Whenever BizCHINA サイドストーリー

1945年末、米国フロリダ州フォートローダーデールの海軍基地から定期訓練で飛び立った5機の爆撃機が、沖合いで5機そろって失踪。さらに、捜索に向かった飛行艇もつづけて行方不明となってしまう。

残骸が見つからず失踪原因が不明に終わったこと、失踪時の気象状況や通信内容などをめぐり尾ひれのついた話が広まったこと、当該海域が大航海時代に遭難多発海域として恐れられたこともあって、「船舶や飛行機が消失する魔の海域バミューダ・トライアングル」の都市伝説が形成されていく。

宇宙人による誘拐、異次元に通じる断層、未知の海洋モンスターの襲撃、アトランティス大陸のハイテク機器の誤作動──といったアイディアは、SFやオカルト本で繰り返し題材とされ、控えめに言ってもかなりの人気を呼んだ。

↑ 宇宙開発時代の幕開けとも重なり、人々の好奇心を掻き立てた(写真はイメージ、フロリダ州のケネディ宇宙センター)

日本や中国が開発進める

次世代エネルギー資源

さて、これに絡めて語られる産業ネタに、メタンハイドレートがある。メタン分子を水分子の檻が閉じ込めた構造をとる可燃性物質で、白い氷状の外観と冷たい手触りから“燃える氷”の異名をとる。

メタンは日本の都市ガスの主成分だが、現状では日本の国産化率は消費量の3%程度で、ほとんどを輸入に頼っているが、日本列島周辺の海底には大量のメタンガスが眠っており、これらを燃料として実用化できれば、日本のエネルギー自給率は大きく改善されることになる。

世界各地の海底にも広く分布が確認されており、日本だけでなく各国が、次世代のエネルギー資源として実用化に向けた技術開発を進めている。

日本では経済産業省のプロジェクトとして、2013年および17年に、愛知県および三重県沖で地球深部探査線「ちきゅう」を投入し、メタンハイドレートを分解して天然ガスを取り出す生産試験を実施。13年には掘削地点に大量の砂が混入し、6日間で12万m3を産出して生産打ち切りとなったものの、17年の試験では2本ある生産坑井のうち1本が出砂トラブルにも見舞われず、24日間に合計20万m3を生産する成果をあげた。今後は米国やインドとの共同産出も目指すなど、従来の自前開発路線を転換し、国際的な協業で試験コストの低減を図っていく方針を示している。

中国政府も今年5月、南中国海北部の神狐海域で試験採掘を実施し、7日間に11万3200m3を産出、日産1万m3および7日間連続運転という当初目標をクリアした。今回の試験採掘には自国開発の深海採掘プラットフォームも投入しており、そのノウハウは一帯一路などのエネルギー・インフラ事業にも応用されることになるだろう。

↑ 日本近海はメタンハイドレートの宝庫(写真はイメージ)

新手のモンスター

メタンハイドレートは世界各地の沿岸部で埋蔵が確認されているが、予期せぬ災害を引き起こす恐れがないともいえない。現に石油採掘の現場では、こうした突発的なガスの放出は大事故を招くため、“死のげっぷ”と呼ばれ警戒されている。爆発炎上はもとより、海上プラントであればガスの放出による地盤崩壊、浮力減少による掘削施設の転覆沈没にもつながる。

メタンハイドレートに関する研究がクローズアップされるにつれ、この“死のげっぷ”が、冒頭の魔海伝説の正体として語られることが増えてきた。海底から大量のメタンガスが解放されれば、気泡によって海水の浮力が激減し、航行中の船舶はあっさり海底に沈没する。また、飛行機のエンジンがメタンガスを吸い込んで爆発する。──そういった説明だ。

では、魔海伝説の謎はこれにて解決だろうか。

今年4月28日、ロンドン大学の海洋学者兼物理学者のHelen Czerski氏が、メタンハイドレート説に対する反証実験の映像を公開した。海底で大量のメタンガスが放出されても、海面に向かう途中で無数の微細な気泡に分裂し、上に向かう海水の流れを形成するため、浮力はむしろ増大するのだという。船舶自体も気泡を受け流す構造をしているため、大量の気泡が海底から立ち上ってきても、船舶は前方に押しやられるだけで沈没することはない、と指摘している。夢を夢のままにしておきたいオカルト好き(筆者を含む)にとっては朗報かもしれない。

一方、メタンハイドレートはメタンハイドレートで、宇宙人や異次元に頼ることなく、新たな海のモンスターとしても注目されている。メタンハイドレートは低温高圧下で安定するが、温度の上昇や圧力の低下で分解し、大量のメタンガスを放出する。例えばノルウェー沖には、海底のメタンガスの爆発で生じたと推測される巨大なクレーターが発見されている。近海でこうした爆発が生じれば、津波などを誘発し得るだろう。そして厄介なことに、メタンハイドレートの分布は沿岸部海底に集中しているのだ。

メタンハイドレートの研究は、単なる資源開発だけにとどまらない重要性を秘めている、ともいえる。

↑ 地球温暖化による海水温の上昇も、メタンハイドレートの不安定化要因として懸念されている(写真はイメージ、北極圏の氷海)

【参考資料】

●メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム推進グループ

(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、

石油開発技術本部メタンハイドレート研究開発グループ)公式サイト

●経済産業省 2017年6月29日付発表資料

●第一財経日報 2017年5月18日付記事

●ナショナルジオグラフィック 2016年3月18日付記事

●Science Alert 2017年4月28日付記事

●NHKスペシャル「海 知られざる世界」

相关文章